『ともえちゃんには、なんにもできない。』
※この作品を、ともえちゃんに捧げます。
ともえちゃんは、この街に住むとってもとっても元気な子。今年で8才になるんだって。きょうも学校が終わったあと、ともえちゃんはいつもお友達に囲まれて、誰よりもたのしそうに遊んでいました。
いつもはとっても明るいともえちゃんですが、実はともえちゃんには、こわーいものがありました。たとえば、知らない人と会うときには、それはもう警戒心丸出し。初めて会う知らない人には「いーだ!」と言って、すぐに隠れてしまいます。
そして、お外では明るいともえちゃんは、おうちではずーっと一人ぼっちでした。パパとママが働いていて、やらなきゃいけないことがたくさんありました。お皿を洗ったり、お掃除したり、飼っている鶏たちの世話をしたり・・・。ともえちゃんはみんなと遊んでいるほんの少しの時間以外はいつもひとりで過ごしていました。ひとりになることも、こわいものの1つでした。
「さみしいなぁ・・・。」
ともえちゃんはいつの間にかどこか胸の辺りにぽっかり穴があいてしまって、気付けばそこに、うずくまるように「さみしい」という気持ちが入り込んでしまいました。
ある日のこと。
ともえちゃんはお友達のえみちゃんやまりかちゃんがいつも胸のところにあるピンク色のハート形をした光に目がとまりました。
ともえ「まりかちゃん、それ、なぁに?」
まりか「これはね、『愛』っていうんだよ!生まれたときからずっと持ってる、とっても大事なものなの!」
その「愛」の形は、ともえちゃんの胸に空いている穴と同じ形で、それをすっぽりと覆うことができるほどの大きさのものでした。
ともえちゃんは、そのみんなが大切にしている、その「愛」が欲しいと思いました。ともえちゃんは「愛」をもらうためならなんだってする!と、意気込んで、思いついたことを一生懸命がんばることにしました。
そして、ともえちゃんはお空に向かってこう叫びました。
「ちゃーんとがんばったら、ともえにも愛をちょうだいね、神サマ!」
◎知ってる
ともえちゃんはたくさんたくさん勉強しました。
ともえちゃんは、もうなんでも知っていました。だーれも知らないことでも知っていました。自分が知らないって思うこと以外は全部ぜーんぶ知っていました。
そんなにたくさんのことを知っているともえちゃんは、神サマにご褒美をおねだりました。
ともえ「ねえ神サマ、ちゃーんとがんばったから、ともえにとびっきりの愛をちょうだい!」
神サマ
「うーん、それじゃあ愛はあげられないよ。」
ともえ「えー!!そんなぁ…。たくさんがんばったのになぁ…。えーい、次こそ!」
◎できる
ともえちゃんは、今度はたくさんたくさん練習しました。
ともえちゃんは、もうなんでもできるようになりました。だーれもできないことまでできました。自分がしたことないって思うこと以外は全部ぜーんぶできました。
そんなにたくさんのことができるともえちゃんは、神サマにご褒美をおねだりました。
ともえ「ねえ神サマ、ちゃーんとがんばったから、ともえにとびっきりの愛をちょうだい!」
神サマ
「うーん、それじゃあ愛はあげられないよ。」
ともえ「えー!!そんなぁ…。たくさんたくさんがんばったのになぁ…。えーい、次こそ!」
◎わかる
ともえちゃんは今度はたくさんたくさん人の話を聞きました。
ともえちゃんは、人のことはなんでもわかりました。だーれにもわからないことまでわかりました。自分がわからないって思うこと以外は全部ぜーんぶわかりました。
そんなにたくさんのことがわかるともえちゃんは、神サマにご褒美をおねだりました。
ともえ「ねえ神サマ、ちゃーんとがんばったから、ともえにとびっきりの愛をちょうだい!」
神サマ
「うーん、それじゃあ愛はあげられないよ。」
ともえ「えー!!そんなぁ…。たくさんがんばったのになぁ…。えーい、次こそ!」
◎してあげる
ともえちゃんはなんでもしてあげました。
ともえちゃんは、困ってそうな人に、もうなんでもかんでもしてあげました。だーれもしたくないことまでしてあげました。自分がしてあげたことないって思うこと以外は全部ぜーんぶしてあげました。
そんなにたくさんのことをしてあげられるともえちゃんは、神サマにご褒美をおねだりました。
ともえ「ねえ神サマ、ちゃーんとがんばったから、ともえにとびっきりの愛をちょうだい!」
神サマ
「うーん、それじゃあ愛はあげられないよ。」
ともえちゃんはとうとう困ってしまいました。
ともえ「どうして私はこんなに頑張ってるのに、みんなが持ってる「愛」は私だけもらえないの?どうして私は、みんなみたいに、ニコニコしあわせになれないの?」
神サマ
「あのね、ともえちゃん。知っていても知らなくても、できてもできなくても、知っていても知らなくても、わかってもわからなくても、してあげてもしてあげなくても、どっちでもいいことなんだよ。」
ともえ「どういうこと???」
神サマ
「ともえちゃんが本当に「したい」とか「やりたい」って心の底から思ったことじゃないと「愛」はもらえないんだ。」
「どうして?ともえはみんなが喜ぶことしてあげたい!だからしてるのに・・・。」
神サマ
「ともえちゃんはちょっとだけ勘違いをしているんだ。厳密に言うと、「愛」は誰かからもらうものじゃない。本当にしたいことをしているとき、それだけで君のココロから「愛」がどんどん溢れてくるんだよ。
知りたい。
できるようになりたい。
わかりたい。
してあげたい。
したいから、する。
ただ、それだけさ。
君はみんなが喜ぶことをしているとき、ココロに愛は溢れているかい?」
ともえ「・・・。」
神サマ「愛の泉はココロの中にある。君が大好きなことをしているとき、ココロがあったかくなって、愛に溢れているあのステキな感覚は、きっと覚えているだろう?もう少し練習してごらん。なんてったって、君はなんでもできるんだからね!」
ともえちゃんは考え込んでしまいました。
ともえ「うーんと、わたしが本当にしたいこと・・・?
わたしが大好きなこと・・・?
愛が溢れること・・・?
なんだろう??
あ・・・!!」
ともえちゃんはずっとずっと行きたかった隣町にある海へ向けて走りました。
ともえちゃんは海がとっても大好きだったのです。
そして、到着してすぐに、ともえちゃんはたくさんの魚やイルカと一緒に泳ぎ始めました。
ぐるぐる回ったり、パシャパシャ跳ねたり、カモメの飛ぶ海辺を走ったり。
カラフルな世界。キラキラな世界。
初めて見る生き物とも、たくさんたくさん出会いました。
「あーたのしい!!本当にしたいってこんなにステキ!!」
ともえちゃんは、どんどん幸せな気分になりました。
すると遠くから、ともえちゃんが大好きなお友達がたくさん駆けつけてきました。
みんな「ともえちゃーん!!」
そしてたくさんたくさん、みんなと遊びました。そして、いつの間にか、すっかり心に空いた穴に入った「さみしい」気持ちはすっとんでいって、たくさんたくさんの「愛」が溢れて、みんなも幸せな気持ちになりました。
ともえ「なぁーんだ!なんにもできなくったっていいんだ!!」
それからともえちゃんは、ココロに溢れる「愛」をどんどんみんなにわけてあげて、「本当にしたいことをする」のがだれよりも上手になりました。
それから、ともえちゃんの周りから、キラキラでカラフルな世界が、ずっとずーっと遠くまで、広がっていきました。
おしまい。